君にだけ、愛を
君にだけ、愛しい想いを

君にだけ、僕の総てを。

だから僕も君の総てを愛してあげるから。
大好きだよ。






君が欲しくて堪らない
-Crazy for you-






あいも変わらず今日も金欠。
愛しの君に、奢ってもらうこと、銀サンちゃんと反省してるんだよ。
これでも、一応。
うん。



喉が渇いたと駄々をこねたところ、嫌そうに顔をしかめながらも
近くのコンビニにわざわざ足を止めて甘えを聞いてくれる。

「今日だけだからな!?今度は絶対ぇ払えよ!!」

ビシッと俺を指さして怒気を含んだ口調でそう文句を垂れながら、自動ドアを通って中に入っていく。

「はいは〜い」

いつものやりとり。
ほんの日常の一部だけれど、君と居るだけでとても幸せを感じる。
自動ドアの横の白塗りの壁に凭れ掛かって、腕を軽く組みながら彼を待つ。



なんだかんだ言って、優しいんだから…。
そういうところ、本当可愛い。
大好きだよ。

久しぶりの、トシ君とふたりっきりのデート。
軽く瞼を閉じて真っ先に浮かんでくるのは、彼の…暖かい笑顔。
普段は、“真選組副長”としての立場や、責任を思って半ば自分を造り上げている彼が
時折、ふと見せる無邪気な幼い笑顔。
俺の前でだけ見せる、暖かい笑顔。
それが1番好き。

彼を想うだけで、自然と顔が綻んでくる。

俺自身も、誰にも見せたことない柔らかな微笑み。
愛しい君に、愛を囁くときにだけ見せる優しい微笑。
まさか自分にこんな風に笑える日が来るなんて思ってもいなかった。
今では本当に君だけで、俺の世界はトシ君が総て。

彼が嬉しいときは一緒に笑ってあげる。
彼が泣きたいのなら、静かに腕の中に抱き寄せる。
熱い欲望と快楽を刻まれたいのなら、君に深く接吻づけて満たしてあげる。
君が愛を望むなら、語り尽くせない言葉とキスの雨で、終わらない夜を永遠に二人きりで。




生臭い血の臭いと、残酷な裏切りと、渦巻く憎悪が取り巻いていただけの
俺の世界に光を与えてくれたのが君だった。


けれども…




こう幸せに浸りきっている時に限ってこそ
それを壊そうと妨害してくる邪魔者が現れるのものなのだ。
そして今日も、可哀想な僕は例外に漏れず、長い溜息を吐くことになる。
ある時はエスっ気のある金髪の坊や、
またある時は片目お化けの俺の元仲間。
またある時はゴリラにヅラにメガネにマダオに酢昆布娘にミントンに…
嗚呼…挙げたらキリがない…。




いつも、いっつも。




全くもって以前の自分の節操のなさには俺自身でも嫌気がさした。
同時に、“本当の馬鹿だな、俺は”と、自分自身に腹が立つ。
何せ、邪魔がやってくる原因を作っていたのが他でもない当事者の俺だったからだ。 




突然、コンビニの隣の裏路地から細い女のような腕が伸びてきて、俺の躯を引っ張り込んだ。

「…ッ!?…てめェ誰…って…お前か…」

真理…―

「何それぇ…酷いよぉ…」
僕、ずっと銀時のことだけ好きなのにィ…
逢いたかったぁ…

朱色の鬱血の花が咲き乱れた胸元をはだけさせて、
派手な着物を身に纏っている見覚えのある…少年。
嬉々として俺の腰あたりに両腕を回して抱きついて、上目遣いに見上げてくる。
申し訳程度に肩に着物をかけているだけ。
大きく開かれた肩にも、誰かから受けた所有の証が刻まれているのも見えた。
絹のような金糸の髪。
透き通るように艶めかしい肌。
薔薇のように赤い唇。
忘れていた碧の瞳まで思い出してしまった。

「僕、いっつも銀時の家行ってるんだよぉ…?なのにどぉして部屋まで居れてくれないのォ…?」
なんでぇ…?

甘ったるい口調と同じ、真理特有の甘ったるい香り。
正直、好きじゃない。
甘い物は好きだけれど、この噎せ返るように香る香水は昔から嫌いだった。

「…んじゃ、その前に俺からも質問。…俺さァ、前にもうお前とは別れるっつったよねぇ?…なのに何で「ねぇ…もしかして」

―…新しい淫乱猫でも見つけて来たのぉ…?…―

俺の言葉を遮った真理の大きな瞳が
俺を見つめながらふ…、と微笑んだ。

「…だって、いっつも聞こえてくるんだもん…夜に。」
凄いやらしい声で鳴いてる雌猫の声。

「…本当女の子みたいに…ふふっ…」
でも、全然可愛くない…。

路地裏の薄汚い壁に俺の躯を押しつけて、
首筋に接吻づけながら赤の華弁を散らしていく。

「あのね…僕…ぎんときのじゃないと足らないのぉ…もっといっぱい…大っきいじゃないと満足できないよぉ…」




今度は、着物の裾からのぞく白い腿を俺の下半身にすりつけてくる。
俺の躯を縫いつけるようにして、緩く腰を揺らすようにしながら密着していく下腹部。
明らかに相手の少年は欲情していた。
熱い欲望がそれを明確に示している。

「…。」

他人に躯の自由を左右されるだなんて、いつぶりの事だっただろうか。

あーあー…苛つく。
つうかぶっちゃけ不快。

その上、俺の言葉は完全に無視。
こういう所、本当…昔と変わらねぇな。
不愉快極まりない。

その昔、の話。
攘夷戦争から退いた俺は、それまでの想いや生き甲斐…仲間も全て失っていた。
まるで生きる理由も目的も無く、高杉とつるんでフラフラ遊び歩いては、
遊郭で女を抱いてつき合っては快楽だけ貪って捨てて来た。

それぐらいしか楽しみが無かったのだ。



そのうち女に飽きてきた頃に、また奴に唆されて出向いた男娼遊郭に連れていかれた。
まぁ、元々そんな趣味は無かったからほぼ興味本位だったのだ。
その時にコイツ―…真理に会った。
顔は確かに好みだったし、若い躯を乱れさせて精液を搾り取って吐き射精て快感を得ることだけに生きていた。
生ける屍、とはあの頃の自分を言うのではないかと今では思う。
1度抱いたその日の夜。
淫らに、甲高い声で喘いだ猫が、掠れたままの声で“今度は…外で僕と会って…”と艶めかしい表情で俺に強請ったのを今、思い出した。
この表情を見て。



…確か同じ顔をして、俺に一方的な貪る口吻をしてきた。


結局、その日を境に俺の家かホテルで、真理をベッドに組みしいてセックスをするだけの日々。
けれどもその“次”からは、俺の方が真理から金をもらうようにもなった。
別に、端金だから、と…。
あの表情で妖艶に微笑みながら“気持ち良いからご褒美あげる”…と、酷く高慢な台詞を吐かれた時もあったっけか。

おまえは俺のご主人様気取りかよって。

気持ち良かった事は確かだけど…。
本能にだけ忠実に生きるのは本当に簡単だった。
ましてや相手はその道の“プロ”とも言える。
遊郭でも1番の人気を取っていた、とも高杉から聞いた。

なんとも愚かな自堕落な生活ばかりが無駄に長く続いていた。

けれども、君をこの眼にした時から俺は他の何にも欲情できなくなってしまったんだ。
本当は、君に刀を向けられたあの日よりも、もっと…もっと昔からずっと…君を見てた。

だから、要らなくなった玩具は切り捨てたんだ。
君が聞けば…俺を“酷い人間だ”と、罵るかもしれない。

でも、それでも
僕は君を愛しく思ってしまったから

好きだの、愛してるだのさんざん囁かれたけれども、なんの感情も沸いてこなかったんだ。




銀時にはとりあえずいちご・オレ(奴にとっての大事な栄養源らしい)、俺は缶コーヒー(ついでにboss)を適当に選んでレジに持っていった。
目的のものを買ってコンビニから出てきたのは良いが、
“待ってる”と言った銀時の姿は何処に見あたらない。
先ほど、この壁に凭れて
寄りかかって笑っていたのに…。

ふと、辺りを見やればコンビニの隣の奥に細い路地を見つけた。



あの馬鹿…、
またなんか下らねぇ事考えてんのか…。
どうせ俺を驚かそうとか思ってるに決まってる…。





「おい!銀と…き…ッ…」





そこを覗いた時、心臓がドクン…!と、大きな音を立てて跳ねた。



銀時の顔は無表情で冷たい瞳だったけれども、
銀時の唇に舌を這わせて愛おしそうに舐める少年の瞳はあきらかに欲に濡れていた。

銀時の腰に抱きついて、ゼロセンチの距離で俺の恋人と抱き合っているのは
見たこともない美しい少年だった。
見たこともないような透き通る肌と金糸の髪。
銀時は俺の声に気づいたらしく、気だるげに
左手で前髪をかきあげながら、その感情のない瞳でゆっくりと俺の方へ振り向いた。





「…。」









―…トシ君…?

今、頭の中に想い描いていた恋人の声が遠くで聞こえた気がした。
振り向いてみれば、だんだんとそのぼやけた輪郭と記憶がはっきりとして来た。



「…トシ君…ッ」

明らかに誤解をしているらしい恋人を思って、
抱きついてくる真理の躯を肩ごと押し退けようとした。
…ところが、真理は離れるどころか更に俺を抱き寄せ距離を詰める。
俺の胸元に頭を埋めて、横目でトシの姿を捕らえた。

「君…誰ぇ〜?」
邪魔しないでよぉ…



図々しくもそう吐き捨てる真理にわずかに眉を寄せて、口を開いた。

「…俺の、可愛い恋人。」
誰、なんて言わないでよ。真理…ー

「…ふぅん…この黒猫ちゃんかァ…」
新しいぎんときのペットぉ…

「…やらしく鳴くんだったらもっと勉強した方が良いんじゃないの…?」
どっかの発情した雌猫みたぁい…。

「な、なん…っ///め…め雌猫…!?…ぎ…銀時!誰だよ、コイツ…っ///」

今まで惚けて、目を見開いていたトシ君が弾かれたようにハッとして俺にくってかかって来た。

睨みつけてくるトシ君のその眼には“浮気なのか!?”という、強い疑いの色が安易に伺えて、俺の良心がズキズキと痛んでくる。
短い沈黙の時間なのに、1日よりももっとずっと長く感じて、重苦しい空間に息が詰まりそうになる。

「…。」

何も答えられないでいる俺に、痺れを切らしたらしいトシが俺の方へ歩いてきた。

「…誰なんだよ…言えねぇのか?」

昔の自分の愚かさを呪っているのに、それでも返す言葉が見つからない。
代わりに真理が赤い唇を開いて告げた。

「…僕はねぇ…銀時のぉ…一個前の恋人。しんり(真理)。」
…銀時とのセックス…誰より一番悦かったの、忘れられないし、キスだってしてたしぃ…

「それに僕はぁ…今でも銀時のこと愛してる…」

にこり…、と天使のような悪魔の微笑をトシにみせると
今度は俺に微笑みかけながら同じ台詞を繰り返した。



「僕はぁ…今でもずっと…銀時のこと愛してる…」


「…そう?それはどうも」

とりあえず柔らかい笑みを浮かべておくけれども、サラりと受け流して、
怒りに任せて恐ろしい形相をしているだろう、トシの方へ視線を移す。



―…俺が好きなのは、可愛いこの子だからね…―



ところが、予想していたトシの反応と実際の反応とでは180度違っていて俺の方が驚いた。

「…俺の方が銀時のこと…あ…愛してる…ッ…///」

「…!?」

可愛い顔を真っ赤に染めながらズカズカと大股で俺の脇まで歩いてくる。
半ば涙目で、睨みつけるようにじっと真理を見据えながら
俺の腕に自分の腕を絡めて、強くグイッと抱き寄せた。

「…コイツ…ぉ…ッ…俺のだから…ッ…///!」

俺だけが、彼の震える指先に気づく。

「…はァ?…それ、僕の台詞なんだけど…急に出てきて出しゃばんないでくんない?」
若くないんだからそんな事しても可愛くないしー。

一方、真理はキャハハっと楽しそうに笑いながらトシに向かって舌を出すと、
俺の首に両腕を回してくる。
そんな真理に俺は内心、舌打ちをした。

―…そっくりそのまま返してやりてぇ言葉だな…―

あんまり俺の可愛いハニーを虐めて欲しくないんですが?

…この子、鬼の副長なんて呼ばれてるますけどぉ…
本当は傷つきやすいデリケートな子なんだからさァ…。

「…ッ…」

ふとトシを見やれば、きゅ…と口唇を結んだまま黙りこくって、
真理が俺にキスをせがむのをただキッと睨んでいた。

こんな時にまたもや不謹慎だけれども、そんな可愛らしいトシの行動に胸キュン…。
好きな子に想われるのって、やっぱり最高に嬉しい。

一方、真理の造られたように整った幼くも妖艶な表情を視界に入れながらふと思う。
『“此”はやっぱり、躾られた男娼の表情だな…』と、呆れるばかり。
マニュアル通りにしか動けない機会仕掛けのセックス・ドールみたいなもんだ。

俺にとっては、ただ性欲を満たす為にだけ成立した関係だったのだから。
真理に俺を本気で好きだとか、愛してるだとか言われても、そんなのどうでも良い。
つまらない。
やっぱり俺にはトシ君しかいないから。

けれど、俺が思っている事など知るはずもない可愛い恋人。
いつもはクールな副長様が、嫉妬の感情を表に出して俺を独占したがってくれている事が単純に嬉しかった。



だからこそ、つい…可愛くていじめてしまいたくなってしまって…―
だってそれが男の性ってもんでしょ?
そうでしょ?
他の男にトシ君を傷つけられるのは絶対に許さないけれど、
俺がちょっとぐらいからかうだけならそれも愛情表現って訳で…
…良いかなァ…なんて。
そんで真っ赤になって、ムキなるトシ君がまた更に可愛くて俺は大好きだから。



「ねぇ…ぎんときィ…前みたいに、僕のこと可愛がってよぉ…絶対…僕の方が気持ち良くなれるよぉ…?」
ずっとね…ぎんときの事、好きだったんだよぉ…?

「うーん…確かに俺は年下キラァだし?…真理君のお顔は好みだしぃ…おまけに銀サン気持ちいの大好きだしねぇ〜♪」
気づかれないように、チラ…と横目でトシ君の表情を伺う。
どんな反応で答えてくれるのか…と、意味なく期待してしまったりして…。



「ぇ…っぎんとき…っ…」


俺を抱き寄せる腕に更に力が込められて、
トシ君の意志の強い黒耀石の瞳が不安そうに揺れるのが分かった。
その瞳の中に俺だけが映っている事に、背筋をゾクゾクと快感が走る。
そのうち泣き出してしまいそうな表情が、あまりに可愛くて小さな加虐心が煽られる。



「だってトシ君…こんなに愛してるってるって言ってるのに、チュウだってトシ君からしてくれた事ないしィ…」

「僕だったら毎日、銀時にチュウしてあげる…」
えっちだっていつでも銀時の事気持ちよくさせてあげれるよ…?

頬をすりよせながら、俺の首筋にざらついた舌を這わせていく。

だから、君の答えなんか求めてないんだって。
…あーもう…トシ君、本当に泣いちゃいそうじゃん。
しかも僕、トシ君の泣き顔見るとイきそうになる変態なんですけどー…
まァ…良いんだけどね、別に。

「本当…?そうねぇ…そういえば、トシ君なんか後ろから抱きしめただけで裏拳飛ばすもんね〜」
俺のハンサムなお顔から鼻血が吹き出たからね。
あん時。



「…ッ…///!…ゃっ!…ヤだ…っ!…絶対いや…銀時は俺の…///!俺…俺…」


とうとう涙をポロポロと零しながら、せっぱ詰まったように泣き出す愛らしい黒猫。
嗚咽が混じるせいで言葉に詰まってしまうらしい。
上目遣いに、涙する濡れた瞳。
上気する頬、荒い呼吸。
強請るようにしがみつく、細い腕。
…そして、嗚咽…喘ぎ声。
目にしたトシ君の様子から想像してしまうのは、やっぱり不謹慎なラブ・アフェア。
2人きりの、愛の情事。



「やァ…だ…っ!銀…っ…するっ!…何でもする…っ…全部するから、ァ…!キ…キスも…!ぁ…あ、の…エ…ぁ…///」
「エッチも?」
…って言いたいの…?



「…っ…///」



一瞬、ビク…とその躯が跳ねて、そのまま俯いてしまったトシ君の長い睫が揺れた。


どんな小さな反応も見逃さないよ?
俺。
君の事なら。全部。
君だけを見てるから。
赤く色づいた口唇がわずかに震えながら、言葉を紡ぎ出す。



「…す、る…ッ…セックス…も…///」



驚いたのは、その後のトシ君の行動。
涙に濡れて潤んだ瞳が、俺を見つめてきたかと思うと
首筋に回された両腕に、強く強引に抱き寄せられる。
ますます近くなるトシ君の熱っぽい吐息と、真っ赤な口唇。
仔猫みたいなアーモンド型の瞳。
吸い込まれそうな程の漆黒に息を飲む。



「んぅ…ふ」



俺は目を丸くして、トシ君からのキスを受けたていた。
拙いながらも、斜めに絡んでくる震える舌に、されるがまま。
…というより突然の、思いも寄らない恋人の行動に驚いて動くことができなかった。



嬉しすぎて。


「…ちょっとぉ…僕の銀時に何するのぉ」



整った顔をひどく歪めながら、トシ君の躯を押し退けようとする真理。

―…せっかく、トシ君がこんなに真っ赤になってまで頑張ってくれてるのに…邪魔する気?
この子の愛はいっつも分かりずらいんだから…
トシ君からキスしてくれるなんて、初めてなんだから。
そのままトシ君の頭の後ろに手を回して、さらに深いところで口吻を交わし合う。

「…っ…銀時…なん、で…やだ…!…ちょっと離れてよ!銀時に迷惑…―」



「…ん…ぅ!?…ぁ、ふ、ぅ…んむ///」



突然、俺が口吻に応え始めたのに驚いたらしいトシ君が目を丸くする。

ちゅ…クちゅ、

「ぁ、ん…ぅ///」

口吻の合間に口唇から漏れ零れる熱を帯びた吐息にさえ、欲情する。
もっと…その喘ぎを聞いてみたくて、
もっと別の所で鳴かせてみたくて…―

喉にまで届きそうな程に深く舌を絡ませ合う。
内頬を舌先でぞろりと撫で上げてやれば、
だんだんと恍惚としていく恋人の表情に背筋がぞくりと震える。

たっぷりと咥内を蹂躙しながら、互いの唾液を交換するように角度を変えて何度も接吻づける。

その最中に横目でチラりと真理を見やれば、苦虫を噛み潰したような表情をしていた。
瞳が、醜い憎悪の色に歪んでいる。

クちゅ…ちゅ

「はぁ…、あ…ふ…///」

長い口吻の後、酸素不足になってしまったらしいトシ君が
頬を朱色に染めながら肩で呼吸を繰り返す。
焦点も定まらないらしく、視線を彷徨わせながら、俺の首筋に弱々しくもしがみついていた。



「…真理」
「…。」



名前を呼んでやったというのに、怒りに支配されているからか、ウンともスンとも返事がない。

―…怖い顔してくれちゃってまァ…―

未だに荒い呼吸を整えているトシ君の艶やかな髪を優しく梳きながら、真理に視線を向ける。

「…悪ィな。」
「…。」
「そんな訳だから…俺、今、この黒猫しか…愛せない躯にされちゃったの。」
「…ぼ…くの方が…可愛い…の…にッ!」
「だから俺にはこの猫にゃんが1番可愛いの。大好きなの。」
お前じゃ、意味がない…―



冷ややかな眼差しで見下しながら、静かに言い捨てる。
言葉に棘があるのは、高慢な真理に身の程を分からせる為に。

「…ッ…」
「だから、お前は俺には必要ない。」

絶対にトシ君には見せられない冷笑を真理にだけ浮かべながら、真理の顎を指先で捕らえる。
上向かせながら、わずかな恐怖に怯える真理に口端をつり上げ低く嘲り笑ってやった。



「―…要らない。」



餞別代わりに持って行け、と荒々しいキスをくれてやった。
魂ごと酔わせるつもりで、乱暴に。

「んふ…ゃ、いゃ…ゃあッ!」

―…ガリ…ッ

「…つッ…」

その途中に真理が俺の舌を噛んで、怯えるように言葉を発しながらゆっくりと後ろに後ずさった。
真理を見下ろしながら、口の端からわずかに伝う赤い血の筋の片手の甲でゆっくりと拭う。



「…お前が欲しいっつうからキスしてやったのに…」
噛むなんて酷いんじゃねーの…?



自分の血をぞろりと舐め上げながら、次の言葉に続ける。



「…ひ…ッ」
「…別に殺そうって訳でもないんだからそんなビビんないでよ…。」
…でもあんまり目障りな事してると…
―…俺自身、何するかわかんないけどね。














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