絶対的支配者



























市中見回りから屯所に帰る途中、煙草を買って帰る為に、総悟と別れ1人暗い夜道を歩いていた。
そこで鉢合わせてしまったのが、高杉だった。
奴は不機嫌極まりないといった表情で、路地裏の壁に背中を預けていた。

―…高杉、晋助…!?

まさかこんな所で過激派浪士に出くわすとは思ってもいなかった俺は目を見開いたまま、その場で固まってしまった。
高杉は立ちすくむ俺に気づいたらしく、感情のない鋭い視線だけをダルそうに寄越した。

「…よぉ。」

酷く冷たい瞳が一変し、うっとりとした眼で妖艶に微笑み、口唇が…歪むように笑った。
それは、無邪気な子供が、残酷な遊びを思いついたときに浮かべる其れとよく似ていた。

生理的に拒否反応を示す。
悪寒が背筋を走る―…



「てめぇかァ…?鬼の副長ってのァ…。」
―…その服、真選組だろ?



後ずさろうとにも脚が鉛のように重くてまったく動かない。
頭の中は、危険を知らせるサイレンが割れそうな程に、激しく鳴り響いているというのに―…



「噂の通りの美人だねぇ…―?本当だったら丁重に扱ってやりてぇところだが―…」
―…生憎、今は滅茶苦茶に機嫌が悪ィんだ―…

「…っ」



ジリジリと一歩ずつ自分の方へ歩み寄る高杉に、知らず知らずのうちに恐怖を覚えた。
背中が冷や汗でじっとりと滲む。
震える身体に鞭を打ち、鞘から刀を抜き、構えを取った。



「…そんなガキの遊びみてぇな構えしやがってよォ―…」
―…抵抗する気あんのかァ?



ククッ…と、喉の奥で低く笑い、俺の瞳を真っ直ぐ捉えてくる。



「な…ガキだと―…!?」

高杉に馬鹿にされ、ついカッとなってしまった俺は、高杉との間合いを詰める為に地面を蹴った。
が、しかし―…

「…っうぁ、ぐ―…ッ」

高杉の間合いに入ったその瞬間に手首を捕らえられ、鳩尾に鈍痛を受ける。
俺の視界は真っ白になって、その後だんだんとフェードアウトしていった。

高杉の拳が、土方の腹を抉ったのだ。

そのまま意識を手放した俺は、グラリとふらつき高杉の腕の中へと落ちた。







「―…やれやれ、とんだ姫君だな…」

ふぅ、と溜息を漏らすやいなやその端正な表情に
美しい悪魔のような、邪悪な妖笑を浮かべられた。
歪められた形の良い口唇を、ねっとりと舌が這う。





「さて―…楽しい宴の始まりだな…」
―…存分に楽しませてくれよ…?
副長様よぉ―…





俺好みに、躾てやるぜぇ―…?






++++++



それが初めて高杉に出会った日のことだった。



俺が次に目が覚めたのは、見たこともない、座敷牢の一角。
高杉の…アジトだったらしい。
その夜は、声が枯れるまで散々、精液と欲を搾り取られ―…

無理矢理に躯を拓かれた。
生臭い精の香りが、部屋中に充満するほどにたっぷりと直腸に注ぎ込まれる。
嫌だ、と泣き叫んでも…あの、美しい悪魔はただ、うっすらと笑みを零すばかりだった。



やっと解放されたのは既に翌日の夕方だった。
すっかり時間の感覚が狂っていた俺は、外の景色を目にして驚愕した。

触れてくる高杉の腕に激しい嫌悪を感じて、悲鳴を上げ
それを力任せに振り払い、泣き帰るようにして屯所に向かって走った。
もし自分の背後に高杉がいたら―…と、考えると、酷く恐ろしくて後ろを振り向くこともできずに必死で走ったのだ。



けれど、屯所の門をくぐれば、神妙そうな顔をした近藤さんがすぐに駆け寄ってきてくれて…みんなが暖かく迎えてくれた。
総悟や山崎まで、心配をかけてしまったらしく、組の隊士総動員で俺を捜していてくれたという。



屯所に帰って来た、その夜。
ふと…酒と一緒に夜空の月を仰ごうと、自室の襖を開けて静かな空気を吸い込んだ。
足下に視線を落とせば何処かの木から折って持ってこられたのだろうか、そこには一輪の八重椿。
拾い上げれば、紙が括り付けられているのに気がついた。



―…明日の夜、昨日会った場所に来い



「たか…すぎ…っ!?」


昨日会った場所、しかも夜。
といえば高杉しか思い当たる人間はいない。



「―…いや、違う…か」
―…疲れてんだな。


指名手配犯でもあるようなあの男が、まさかこんな敵の陣地まで、わざわざ乗り込んでくるとは思えない。
それも、こんな物の為に…―



総悟辺りか誰かの悪戯だろうとふんで、その八重椿を庭に投げ捨てた。





そして、俺は自分のその行動を呪い、悪夢までを見ることとなる…―







手紙の文面を全く無視をし、約束の時間になっても俺は自室で仕事をしていたのだ。
仕事に疲れ、机でうたた寝をしてしまい、気づいたときには外はもう夜が明けていた。
高杉に犯されて、その足で泣く泣く屯所に帰って来たあの日からは2回目の朝。
目覚めたとき、眼前に見たこともない黒のビデオテープを見つけた。
その隣に、真っ赤な八重椿も一緒に添えてあった。

「…何だ、こりゃ…」

夕べはこんな物はなかった筈だ。
部屋を見回しても、特に何か、変わった様子はない。

不審に思いながらも、そのテープをビデオにセットした。



砂嵐が数分続き、『なんも入ってねぇじゃねぇか』とビデオを止めようとしたその時…―



俺は、目を疑った。


―…言葉も、出ない。



突然、砂嵐が消え、直腸を無理矢理に高杉に貫かれ、下腹をべっとりと血液と精液で濡らしている“あの夜”の俺の姿が映し出されたのだ。

しかも、結合部分と鈍痛を伴う快楽に顔を歪めて、
涙ながらに喘ぐ自分の表情もありありと―…


『ひっぐァっ…ひぃっ!ゃぁぁぁあ!やめてっ…いやっぁぁ…』

『痛ぇ…う、ァ…っイゃ―…ァ…ゃぁ!』





激しい俺の抵抗に、高杉の右手が、俺の首を緩く締め付ける。
その映像を目にして、無意識のうちに首筋をそっと撫でた。




『ぁっあ―…んっ…はっ、も…と…もっと擦って―…ぇ』

『いいっ…ぁっは、ひぃっ…気持ちっ…ぁあん///』





真っ赤になったまま目を俯かせて、必死でリモコンを探した。
その間でさえも耳を貫く自身のはしたない喘ぎ、悲鳴。



それも、痛みを訴えるものから、だんたんと快楽に酔い、溺れる様へと変わっていく。



やっと見つけたリモコンを慌てて掴み、ビデオを停止して、押し黙る。

あの日まで、自分が、痛みで強引に支配されることに快楽を感じる性癖を持っていただなんて知らなかったのに―…



八重椿に再び手紙がくくりつけられたいたのに気づき、ガタガタと震える手でそれを開いた。



『これで最後だ。今夜、あの場所に来い』



―…そのビデオ、売ったらさぞ高い値が付くぜェ…?
試しに、幕府のお偉いサン方に売りつけてやるか…?



そう言いながら、端正な顔を悪魔のように歪めて高笑いをする高杉の姿が、目に浮かぶ。



―…きっと、もう
逃げられない。



ぎゅ、と手紙を握りしめた。

















こんな、エゴしか持たない人間など一番嫌いな筈なのに…―
どうして俺は―…
どうして俺は、逆らうことができないのだろうか―…





「いいねぇ―…相変わらずそそるぜェ?」
お前のその眼は―…



高杉は、自分を睨む俺の眼が好きだという。
決して、他人に屈しない、その色を称えている…と。



「っく…ぁ、は―…うァ」



週に3回。
下手をすれば2日連続で呼び出され、高杉の性欲処理のために乱暴に犯される。

あの八重椿が、情事への誘い。

黒い帯で目隠しをされ、全裸で、そそり立つ高杉の雄の上に引きずり下ろされた。

「うぁぁああ!!!グ…痛ェ―…っ、うァ…あァ」

後ろ手に俺の両手首をキリキリと拘束する鈍色の手錠。
肌に食い込んで、酷く痛む。

乾いた肉の蕾を下から、串刺しにされギチュギチュと傷つけられる。
足の付け根から、太股へとツ―…、と血液が伝い落ちるのが分かった。
感触と、血の臭いで。

「っァ!痛ぇ…ぇえ…っあ、はぁ…ぐァ」
「うるせぇな…、痛ェ方が好きなんだろう…―?」
いつまでも、同じこと言わせんじゃねぇよ

高杉は、絶対に前戯をしない。
以前、無理矢理に犯されたあの日も。
緩く解されただけで性急にぶち込まれた。

今も、自分で動こうとはせず、俺に腰を振るように命令するのだ。
熱く猛った高杉の肉棒に、肉襞を擦るように上下に腰をゆする。
その度に、ナカの粘膜が灼き切れそうな程に、ジンジンと痛んだ。
遮られた視界の中では、高杉がどんな表情をしているのか…全くわからない。
痛みを訴える生理的な涙が、視界を遮る帯をじっとりと濡らす。

「…はァっ…―ぁっあゥ…んやぁぁアっ」

脚を限界まで割り開き、高杉のペニスを呑み込むその、肉蕾の口唇までを高杉の眼前に晒け出す。

「ぅ…ぁ、はァん」

そうしろ、と何度も言われて犯されてきたから―…

「クク…酷ェ乱れようだなァ…?土方ァ…」

高杉の体温の低い指先が、結合部分をツ…と撫でた。
高杉のペニスをギチギチに埋め込まれて、ぴっちりと高杉の根元に絡みついていた肉襞がぴくンと反応する。

「ひぃ…っ///!ひゃあ…ァ、ぅア」

だんだんと痛みが、快楽へと変換されていく。
先端からはトロトロと先走りの蜜が溢れているらしい。
自身を伝う感触からわかる。

「いい加減、自我なんざ捨てちまったらどうだ…?」
淫乱野郎がよォ―…

低く、笑いを漏らすその美声。
俺の耳にぬるりと舌を滑り込ませて、その中を這うように、ねっとりと舐めあげた。
ゾクゾクと背筋が震えて、小さな喘ぎが口唇の合間から零れていく。





―…俺を、愛せ。





そう、甘く囁く癖に、俺がお前に本気になった時は…
いつか、もしも俺がお前を愛してしまったら…―

その時は、間違いなく、俺を捨てるんだろう?

お前は、奪う側の人間だから…―
求める側の人間は、すぐに切り捨てる。

いらなくなって捨てられた高杉の性玩具は、奴の部下に手渡され、手酷く扱われるのだ。
輪姦、強姦は当たり前。
昼夜が分からなくなる程に、長時間犯され続け、精を呑まされる。
胎内に精液を注がれたまま、飽きれば路頭に捨てられる。

まだ、高杉を知ってから日が浅いというのに…そんな人間を何人も見てきた。
気が狂ったように喘ぎ続け、自ら精を強請り、蕾を淫らに濡らしては狼を誘うのだ。



正直言って、激しく嫌悪した。



自分は、絶対にそうにはならない。
―…なりたくなど、ない。





だから、ありえない。



―…こいつを愛するだなんて、そんなこと。



けれども俺は、拒絶する心とは裏腹に、
確かにこの男を、
この男の激しい熱と痛みと快楽を欲しているのだ。
変わっていく自分の身体と一緒に、餓えていくのだ。



「て、めェなんざ―…っでぇ嫌ェ…だ…!…うぁぁ…ッ、ふ」



―…っは、ぁ



ん、ゃ―…ぁ



ぁ―…





甘くなっていく自身の喘ぎを、何処か、ずっと遠くの方で聞いていた。



とうに囚われてしまったらしいこの躯。
心まで支配される前に、逃げなければならない…―





でも、それさえも許されない。
愛せば地獄。
愛さずとも地獄。

俺を、絶対的に支配するこの男。





どうやって逃げ出せばいいというのか…―





俺は、知る術を知らない…―





















.,*end













2005.08.26
飴子





 
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